果てしなき道東の味

夏の終わり、いや、初秋の空気がすでに漂う
道東の弟子屈「山椒」さんから始まった
今宵堂『ほろ酔う器展』
「展示」という大義名分を掲げ、
その土地の呑み喰い旅を楽しむのはいつもと変わらず。
今回の日記は、自然の姿に圧倒されながら巡った、
道東の旨いもんの記録です。

釧路空港から最初に向かったのは、
海風なびく釧路の「レストラン泉屋」さん。
お目当は釧路のソウルフード「スパカツ」です。
パスタ、ミートソース、トンカツが熱々の鉄板に。
少し焦げたパスタが焼きそばっぽくていいのですよね。
鉄板に弾けるソースをハンカチでカバーするおじさんの
こなれた仕草に憧れました。
カニピラフのカニ質もお見事なのは、さすが港町。

弟子屈の展示会場「山椒」さんのすぐ側、
地元の人や観光客で賑わう摩周「つじや食堂」さんでは
「チキンスープカレー」を。
夏の終わり、北海道では野菜と食べるといいよと教えられたとおり、
ひとつひとつの野菜の旨味に感動しながら。

同じく弟子屈「青龍」さんは、
「山椒」ご夫妻お気に入りのザ・地元中華。
こういうお店で展示会の祝杯をさせていただけたことに
じーんときました。
パリッパリの春巻とサッポロビールの星の
黄金色が眩しかったです。

弟子屈ラーメン」や生乳のソフトクリーム、
食べても太らない娘と、きっちり目方を増やしていく父母は、
北海道のおいしい洗礼を受けつつ・・・、
「山椒」さんを後に、車を走らせて、屈斜路湖・阿寒湖へ。

屈斜路の掘ると温泉が湧き出る砂湯では、
かわいく並んだ揚げじゃがいもを頬張り、
ついでに焼きとうきびも・・・。
買い食いはとまりません。

そして、セブンイレブンのフレンチドックをテイクアウト。
こちらでは買った後に、店員さんに
「ケチャップにしますかお砂糖にしますか?」と聞かれます。
お砂糖と答えると、コーヒー用のスティックシュガーが
ついてきて、それをパラパラとかけて食べるのが道東流。

美幌の珈琲とキャンドルのお店「豆灯」さんでは、
古いおうちであたたかく静かな喫茶時間。
北海道は焙煎の地ですが、
その味と喫茶としての質の高さを肌で感じました。
この一軒を目指して、車を走らせたい、
そんな気持ちになるお店でした。

食い倒れて行き着いた先は、阿寒湖温泉。
夜は、温泉街の酒場「浜っ子」さんの
味のある小上がりで、親子三人の初炉端。
焼き場に構えたおじいちゃんの
威厳ある姿にどきどきしながら、
果物のような甘みのアスパラガスを。
旅の疲れを癒してくれるのは、酒場と湯ですねー。

ぐるっと戻ってきた釧路の街では
「ザンギ」と呼ばれる道東の名物、
鶏の唐揚げの専門店「鳥松」さんへ。
暖簾をチラリと除くと、
心を鷲掴みにするような大衆酒場のカウンター。
子連れでは無理かなぁと半ば諦めていたのですが、
お子さんもいいよ、とおかみさん。
お店独特のソース味のタレを付けた
揚げたてのザンギをかじりながらビールを呷る。
この街にはこういう呑み方、過ごし方があるのだなあと
しみじみ。娘も大人たちに混じって
オレンジジュースでこの街の夜を過ごしました。

釧路の酒蔵「福司」を楽しむお店「蔵人」さんは、
落ち着いたバーのような雰囲気の大人の酒場。
ただ、おかみさんの素敵なキャラクターも相まって、
地元の酒好きさんたちの笑顔で溢れていました。
今宵堂の器も楽しく使っていただいています。
ここで美味しいお酒や人と出会い、
そしてこの酒場やこの街が好きになった・・・と、
常連のお客さんがしみじみ話してくださいました。
「お酒」というものの持つ素敵な力、
そして、こういう世界と関わって
仕事ができることの喜びを実感した夜でした。

釧路の朝ごはんは、駅そばの「和商市場」へ。
ここの名物は、白ごはんに魚屋さんで自分で
チョイスしたネタをのっける「勝手丼」。
和製タパスのようなチマチマとした丼作り、
観光客らしくついつい食べすぎちゃいますよね〜。
でも、これは本当に楽しい!

炉端焼きも、この地方の名物のひとつ。
しかし「喰い処 鮭番屋」さんは、
なんと朝餉と昼餉の炉端の店。
隣の魚屋で買ってきた魚介を、
プレハブの炉端台へ持ち込みます。
午前から炭火の前で美味しい魚介にありつけるなんて、
旅ならではの贅沢ですね。

道東は果てしなく広く、旅の時間は足りません。
でも、ここまで来たら、日本の東の涯を実感したくて、
納沙布岬を目指すことにしました。
東の街・根室駅前の「ニューモンブラン」さんは、
根室名物「エスカロップ」の発案の店。
フランス語で「肉の薄切り」を意味する「escalope」は、
バターライスにポークカツレツ、
そしてそこにデミグラスソースがかかった
ハイカラかつ昭和の味が落ち着きます。

店内の時代を遡ったようなレトロな色彩と、
この洒落たネーミングの洋食、
そして駅前のカニの売り出しに納沙布の強い風。
すべてがアンバランスだけれど、だからこそ、
旅の味は面白さもくっついて、忘れられないものですね。
まだまだ見知らぬ味知らぬ道東。
いつかまたきっと、次はどこを巡ろうか、
ボロボロになった地図を眺めています。

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