『一菓一盃』


あんなにも暑さに辟易しながら、
夏が過ぎゆくと寂しい心持ちになるとは、
お天道さまも苦笑いですよね。

今年の初夏から夏にかけて、
今宵堂は不思議なことに和菓子とのコラボが続きました。
初夏の風吹く頃、
千駄木「薫風」さんとのイベント『一菓一盃』。
憧れの店主・つくださちこさんと新しい試みに萌えました。

和菓子と器の取り合わせは、
盛る盛られるの妙を楽しませてくれるけれども、
私たちが試みたのは、和菓子と盃の合わせ。

小さきものと小さきものの。
「和菓子一つ・盃一つ・日本酒一杯」で作るメニュー、
盃はそのままお持ち帰りいただけるという趣向でした。
二日限りのユニットを組むような気持ちで、
こんな可笑しなお品書きを考えてみました。

「うちのオカン」
大阪名物の素敵なマダムを召し上がれ。
パーマはミントのきんとんで表現、
絵付はうちの大阪のオカンを思い浮かべながら取り組みました。
合わせるお酒はもちろんお燗です☆。

「ドラ焼キ食エスト」
伝説の5つの味のどら焼を食べながら迷路を進み、
お酒の入った「さかづき姫」のところまで行くゲーム。
どら焼きはそれぞれ柑橘系で五種の味となっています。

「乙に一杯」
触れて揉んで時にはつまんで・・・。
桃風味の黄身餡の練りきりを、
なめたりかじったりと弄ぶ大人のおやつ。
盃は、今回焼き方を変えてみて、
艶やかな肌合いにもこだわりました。

「瓢箪からコマ」
瓢箪の盃で呑む「独楽蔵」・・・という駄洒落のみならず、
山椒黄身餡の瓢箪餅を食べていると・・・、
実は中から「駒」の箸置が出てくるという仕掛けです。

「レモンスカッ酒」
レモン風味の寒天ぜんざいはそのまま食べても美味しいのですが、
お酒を注ぐとまた面白い味わい。
甘酸っぱい夏の思い出とともに。

などなど・・・、
ふざけたネタたちを興味津々に迎え入れて、
和菓子へと具現化してくださったさちこさん。
そのキャラクターも含めて、
「薫風」という和菓子屋さんの魅力なんですね。

二日間で十種のお品書きでしたが、
開店直後からたくさんの呑助さんにお越しいただき、
早々に完売御礼と相成りました。
本当にありがとうございました!
そして、お菓子が間に合わなかったみなさま、
申し訳ありませんでした!
こちらのfacebookページのアルバムからイベントの様子をご覧いただけます。

やはり今年は、いろんな人と
お酒と甘いもんは合うのだろうか?という話をします。
そんな話を散々した結果・・・私たちの正直な感想として、
単においしいものとおいしいものは合う、のでありました。
口の中に幸せを含んで、甘〜く過ごしてゆこうと思います。

春を燗じて♡


鴨川の桜も満開、すっかり花見酒の季節。

遅くなりましたが、2月の福岡での展示
おアチいのがお好き♡ Sake Like It Hot 』、
2月25日をもちまして、うれしく楽しく終了いたしました。
ご来店いただきましたみなさま、ありがとうございました♡

今回は、酒器屋としてはじっくりと向き合いたい
アチアチの「お燗」がテーマ。
そして、季節はバレンタインの頃。
アツアツの「恋」も絡めて、
アラフォー夫婦が仲睦まじく知恵を絞りました。

ずっと胸に秘めていたのが「二合徳利」。
名古屋の銘店「大甚」で出会ってから、
その佇まいに心魅かれていました。
正真正銘の正二合、
何人で卓を囲んでも酒が途切れぬ安心感。
シンプルな造形に衒いのない白磁で渋くまとめてみる・・・
とは収まらず、ふふふ、と筆を入れることに。

かくして生まれた「二合さん」は、
私は一番じゃなくてもいいの・・・
と憂いを含んだ眼差しで呟く懐の深い女です。
でも、そんな「二合さん」たち、
福岡の素敵な酒場へと貰われてゆきましたとさ。

同じく顔のついた丸底の「見合猪口」は、
くるくる回して止まったときに
お互いの方を向くかどうかで相性がわかる遊び盃。

「蓋徳利」は、暖かいお燗をなるべくアツアツのまま
楽しんでいただきたいのと、
この恋の気持ちを逃がしたくない♡という想いを込めて。

そして、薄紅色の小さな盃なんかも
春めく気分で並べてみました。
そのほかの展示の様子は、facebookページのアルバムもどうぞ。

展示二日目には、楽しみにしていたとどろき酒店さんでの角打ちイベント!
今回は、大手門の「蕎麦前 出谷右衛門」さんが、
恋をテーマに、お燗酒に合う肴をご用意してくれました。

なんと、出谷右衛門さんご夫妻は実際に新婚アツアツ♡。
そんなおふたりに加え、とどろき酒店スタッフのみなさんのおかげで、
店内はとてもたくさんの呑助さんで賑わいました!

実は、この日は粉雪舞う寒〜い日。
しかし、ビールケースを椅子にした店外にも呑助さんの姿が!
寒さも吹き飛ばす旨い燗酒と肴のミラクルでございました☆

私たちが在店させていただいた二日間。
たくさんの呑兵衛のみなさまや、福岡の酒場のみなさまとの出会いを
とっても楽しませていただきました。
次はもっと長く福岡に滞在して、
街の酒場を巡りたいと思います!

打ち上げの帰りは、福岡とは思えぬ雪国のような景色。
燗酒のイベントらしい〆になりました。

お酒に恋する私たちは、
たった一杯のお酒を口にするだけで、
幸せな心地になります。
それは、シンプルに「おいしい」の成せる技でありますが、
なんだかそれだけでもないような・・・。

お酒を造る人、お酒をつける人の気持ち。
そして、そこで酒呑む人の熱をじんわり感じるからでしょうか。
ほろ酔いの手で掴まれる小さな酒器が、
その酒場に漂う幸せな熱を、これからも伝えていけたらうれしいです。

今宵堂の酒器展 『おアチいのがお好き♡』


今年の冬も鴨川が一面、真っ白の日がありました。
続く寒さにボヤキながらも、
酒卓に温もりを求める呑兵衛の楽しみもありますね。

二月、福岡の素敵な酒屋「とどろき酒店」さんでの展示には、
そんな寒いさなかにゆっくり愉しみたい
「お燗」のための器をお届けします。

愉しい肴とともに、純米酒を抜群の燗付けで楽しませてくれる
数々の酒場のおかげで、私たちも、この「お燗」という
呑み方の楽しみを知りました。

気軽なようで、奥が深くもあり、
古くさいようで、新しい出会いを含んでいる。
どのような形であれ、このお酒の呑み方は、
ほっこりとやさしい旨味を届けてくれます。

酒器屋としては、いつも頭の片隅に「徳利」の姿があります。
陶芸としての味わいというよりも、
おうちでも使いやすく「お燗」に寄り添う徳利は、
果たしてどんなものだろう?

私たちが初めて強く意識した徳利との出会いは十年前。
京都の老舗の大衆酒場でした。

カウンター越しにお燗番のおじさんが銚釐でつけたお酒を
おでん鍋の上で小さな徳利にうつしかえる。
少しあふれたお酒がおでん鍋へと魅惑的にこぼれてゆきます。

たしか「白鶴」の銘が入った小さな徳利。
その肌は、磁器ならではの薄作りと熱伝導の高さのため、
持てないくらい熱い。もう、笑ってしまうくらい。
でも、アチアチとはしゃぎながら
徳利の首を摘んで猪口に注ぐのがなんだか楽しくて。

素っ気なさと艶やかさを含み、
手元にも気持ちにもストンと落ち着いてくれる
細身の磁器の燗徳利。
この佇まいを思いながらできたのが今宵堂の「燗徳利」でした。

機能性のことだけを考えれば、熱くないように
把手をつけたり陶器でぶ厚めにしておいたり、
ということもできますが、
やはり、あの酒場で感じた楽しさのことを思うと、
熱いものはアチチと言いながらその熱さを楽しみたいのです。

そんなこんなで、今回の展示の酒器はすべて磁器で作りました。
そして、バレンタインの季節でもあるので、
「恋」をテーマに、アツアツ感を携えた遊んだ酒器たちも並びます。

酒に酔って恋に酔う。
ぬくもりを求める季節、そして春を待つ季節、
恋する呑兵衛のみなさまに楽しんでいただけますように。

今宵堂の酒器展 『おアチいのがお好き♡』 〜 Sake Like It Hot 〜
2018年 2月10日(土)~ 25日(日) 10:00 ~ 19:00 月曜休
会場 / とどろき酒店  福岡市博多区三筑2-2-31
電話 / 092-571-6304
※ こちらからDMをご覧になれます。
※ 今宵堂は、2月10日(土)・11日(日)に在店いたします。

【角打ちイベント/出谷右衛門の燗じちゃう♥出張蕎麦前】
大手門の「蕎麦前 出谷右衛門」さんが、恋をテーマに、お燗酒に合う肴をご用意してくれます。〆にはもちろんアチアチのお蕎麦もどうぞ!※予約いらずの立ち飲みスタイルです。

2月11日(日) 14:00 ~ 17:00
会場 / とどろき酒店(三筑本店)
◎日本酒(燗&冷)500円〜
◎恋をテーマにした肴 500円〜

『晩酌の愉しみ』


窓を開けると、
坪庭からさあっとやさしい風が通り抜けます。
じっと手元を見つめて仕事をしていても、
ふと顔を上げさせてくれる、この初秋のひと吹き。

小さな工房を初めて、11年の月日が過ぎました。
たくさんの吞兵衛さんに出会い、
たくさんの酒器たちを作りました。
いろんな企画や展示は、どれも酔い思い出です。

私たちの日常はというと・・・、
やはり晩酌を軸として暮らしてきた様な気がします。
できるだけ毎日、忙しい時でも「晩酌」をしようね。
二人で決めた約束は、
「手抜き」という技のおかげで守られてきました。

ちょっと頑張って肴を作る日もあるけれど、
商店街の肉屋にコロッケを買いに行く日や
スーパーの特売でめっけもんを見つける日、
お持ち帰りの唐揚げを鴨川でつまむだけの日だってあります。
器を作っているからといって気張らずに、
かっこつけずに用意する酒卓。
何かに真剣に向き合うわけでもなく、
ただ小さな酔いに身をまかせるそのユルさが
私たちにとっての幸せなのかもしれないですね。
そして、乾杯も二人から三人へ。
ちなみに、うちの下戸ちゃんの好物は馬刺しです。

SNSで垣間見るお客さまの晩酌風景もとても愉しい。
このお酒呑んでみたいなとチェックしたりする時もあれば、
地元の肴に旅情を掻き立てられたりも。
コンビニのお総菜をきれいに盛りつけている様にも惚れ惚れ。
晩酌って、なんて懐の深い娯楽なんでしょうね。

今宵堂の酒器も、そんな軽やかでユルい晩酌のように、
気軽なお伴でありたいと思っています。
作り手の手間暇なんて感じてもらえなくてもいいな、
と素直に思えたのは、
ちょっぴり自信の持てる仕事が出来始めたからかもしれません。
娘が産まれて箍が外れたのか、
酒器に顔なんか描いたりしてしまいましたが、
それもまたいいなと素直に思ってしまっているのです。

20日より、東京の日本橋三越さんで
晩酌の器たちを並べさせていただきます。
関東では初めてのまとまった展示。
実は普段の展示会よりもたくさんの器たちをお届けいたします。
今までの今宵堂の酒器と肴器をぎゅっとまとめながら、
新顔さんもちらほら。
関東の晩酌を愛おしむ呑兵衛さんたちに
ニコッと愉しんでいただけますとうれしいです。

『晩酌の愉しみ』~ 今宵堂の酒器と肴器 ~

2017年 9月20日(水)~ 10月3日(火) 10:30~19:30
会場 / 日本橋三越本店 本館5階 和食器売場
    東京都中央区日本橋室町1-4-1
電話 / 03-3241-3311
※ 今宵堂は、初日の20日(水)のみ在店いたします。

桜吹雪と武将の盃


青々と繁った木々の姿に見慣れた頃ですが、
ふと思い出す、薄紅色の風景。
春の酒器展 『酔わせてみせようほとゝぎす』は、
丁度、桜の見頃を過ぎた頃に終焉となりました。
御礼遅れてしまいましたが、
ふらりひらりとご来訪いただいた呑兵衛のみなさま、
ありがとうございました!

今回の展示は、慶長三年の春、伏見・醍醐寺にて
太閤・豊臣秀吉が催した大酒宴を舞台としました。
「醍醐の花見」と呼ばれるこの盛大なドンチャン騒ぎは、
側室たちや諸大名から女房女中ら大勢を召し従えた
現在の呑めや唄えやの「庶民の花見」の元祖と言われています。

と、この展示の事前の告知内容は、ここまで。
案内状を手にされた方々は、一体どんな酒器が並ぶのか?
と訝しげな気持ちで、会場を訪れて下さったご様子でした。

今回も「ギャラリーH2O」さんの城造りに萌えました。
桜色の吹雪の中、まるで墓標のような白黒の舞台。

そう、ここに招かれしは、
華麗な衣装を身に纏った女人ではなく、
秀吉とともに戦国時代を駆け抜けた「戦国武将」たち。
しかも一握の酒器へと変わり果てた姿で。

日本の歴史の中でも「戦国武将」は
その輝かしい武勇伝をカッコよく語られる存在。
戦場を駆け抜ける「武将」のもつ魅力は、
桜の残像のように、美しく舞い上がって
数百年経った今も、胸を高ぶらせてくれます。

しかし、今宵堂がこの展示で掬い上げたかったものは、
戦国武将と「酒」の話を軸にした、
鎧の奥に潜む、幾分滑稽な姿でありました。

呑む者の心を緩める力をもつ酒とはなんとも罪なもの。
一国一城の猛者たちにも、私ども下々の者と違わず、
酔いが招いた過ちや触れられたくはない過去があります。
欲に溺れたり、恋に焦がれたり・・・。
どれほど力を手に入れようと、変えられない己を露呈するもの。
酒とはそんな魔力=魅力を持ったものなのですね。

今回は、そんなお酒と武将に関わるエピソードを
酒器にして表現してみました。
秀吉を筆頭とした「武将」の酒器たち。
こちらのfacebookページのアルバムからご覧いただけます。

史実を紐解いている時に、ふと心に残った言葉がありました。
「もっと平凡に生きたい。良い人になりたい。」
という意のことを、幾人もの武将が書き留めておりました。

野望や栄光は人に力を与えてくれます。
しかし、安らぎという幸せは、
どうすれば手に入れることができるのか、
保ち続けることができるのか。
人として愛おしむ「大切」なものを
常に犠牲に晒す日々は、いかに武将といえども、
過酷な日々であったのでしょう。
だからこそ、束の間の夢を見させてくれる「酒」を介して
様々な悲喜交々の小話が生まれたのかもしれません。

あの花見の展示から数週間、
私たち家族は、小さなちゃぶ台を囲み、
ごくごく平凡な晩酌を繰り返しています。
そして、時折、武将の盃を手にするたびに、
このささやかさの意味を思います。

戦場を伴にしてくださったみなさまにも、
夏の穏やかな酔いが、
どうぞ健やかに流れて行きますように。


『酔わせてみせようほとゝぎす』

幾分のんびりとした佇まいの桜の蕾を眺めつつ、
今か今かと花見酒が恋しい季節。

きっと桜も見頃な、4月初めの4日(火)から、
京都・三条富小路「ギャラリーH2O」さんにて
今宵堂の春の酒器展が始まります。

テーマに合わせて、会場が変身するH2Oさんでの展示。
前々回の展示『BAR 2C2H5OH + 2CO2』は、
BARをテーマに、白いカウンターが会場に現れ、
カクテルの名前をつけた酒器たちが並びました。

前回の『男と女のババンバ・バンバンバン♪』では、
暖簾の向こうが如何わしい「銭湯」になり、
お客さまに男湯と女湯に分かれて入場していただきました。

さてさて、今度の展示はいかに?
タイトルは、

今宵堂の酒器展
『酔わせてみせようほとゝぎす』

春爛漫、桜満開のこの季節ならば、
やはり「花見」の場を作ろうと思い立ちました。
でも、ただの花見ではなく、
戦国の世を治めた太閤秀吉が催した
一世一代の大イベント「醍醐の花見」が今回の舞台です。

実はこの「醍醐の花見」、
桜を肴に呑み喰いを楽しむ
現代の「花見」の先駆けなのです。

それまでは、貴族階級が優雅に歌を詠むなど、
伝統行事としての趣が強いイベントでした。
しかし、晩年の秀吉がその権威を見せつけるために
この盛大な酒宴を催したことで、これが庶民の間に広まり、
「花見」=「お酒を呑んでドンチャン騒ぎ」という
愉しい文化が根付いたといわれています。

京都の醍醐寺に1300人が招かれた大宴会。
秀吉の有終の美を飾るこの催しは、
天下人が私たちに残してくれた遺産でもあります。

桜も酒も人の心を酔わせるもの。
その酔いは万人に等しく舞い降りて、
束の間の夢見心地の中、いつの間にか散っていきます。

みなさまにもひとひらの酔いを味わっていただけますように。

今宵堂の酒器展 『酔わせてみせようほとゝぎす』
2017年 4月4日(火)〜 16日(日)
12:00 〜 19:00 月曜休 ※ 最終日は17時まで
会場 / ギャラリーH2O
    京都市中京区富小路通三条上ル福長町109
電話 / 075-213-3783

※ こちらからDMをご覧になれます。

三畳一間の展示室


松の内が明けるころ、
滅多にない大雪に見舞われた京都の街。
そして、真っ白な雪化粧をした鴨川のように、
今宵堂も少しばかり、衣替えをいたしました。

うちは、築約80年の小さな町家。
大家さんが手塩にかけて愛おしんでこられたおかげで、
十年間、その姿のまま住んできました。
しかし、今回、玄関先の小さな展示室である
三畳間の床を張り替えてみることにしました。

私たちの十年目の小さな衣替えを
引き受けてくださったのは、
友人の建築士「STAGE」の毛利さん
腕利き大工「小山建築」の小山さんと弟子の和馬くん。

そして実は、張り替えのための床材を、
毛利さんが不思議なご縁で手に入れてきてくれました。

現在、京都市内で作られる「やきもの」は、
主にガス窯や電気窯で焼成されています。
昔は登り窯による焼成が主流でしたが、
昭和46年に市内で大気汚染防止条例が施行され、
煙を排出する薪が焚けなくなったことで、
次第に登り窯は役目を失い、姿を消していったそうです。

昨年まで、京焼の産地・五条坂界隈には
5基の登り窯が京焼の遺産として残っていました。
しかし、その内の1基「井野祝峰窯」が
人手に渡ることになりました。

井野祝峰窯は、江戸時代の後期に築かれた登り窯。
陶工たちの共同窯としても活用され、
私たちの憧れの名工やお世話になった恩師たちが、
腕を磨き、数多のやきものを生み出してきたと知りました。

そして、窯道具のひとつに「桟板」があります。
轆轤でひいたものを載せ、削り出したものを載せ、
釉掛けするものを載せ、窯に詰めるために載せて、
窯から出したものを載せて・・・、
つまり、制作の過程でひたすら「載せる」ための板です。
桟板に触れない日はなく、傍らにはいつもあるもの。
材質は、ほぼ杉。うちにも30枚常備しています。

下りが長くなりましたが、
一年前、人手に渡る前の祝峰窯の桟板を
毛利さんが譲り受けてきてくださって、
それを大工の小山さんが床材として加工してくれたのです。
ただ単に張るだけじゃつまらない、
何かこの空間にストーリーをとの粋な計らいなのでした。

小山さんのお仕事は、とても丁寧。
桟板の木目の美しさを残しつつ、
きれいな仕上がりの床が生まれました。
ちょっと悪戯で瓢箪を隠したりなんかして・・・。

白木の床板は、工房の雰囲気に合わせて色を纏い、
改装したとは思えないほど、しっくりと馴染んでいます。
無垢の杉板のあたたかみもじんわりと伝わってきます。

10年前に夫婦ふたりで始めた今宵堂は、
歴史や伝統を担うような工房ではなく、
私たちの作るものもいわゆる京焼でもなく、
ただ好きで暮らしているこの街の景色を見ながら
作っているだけの小さなお猪口屋さんです。

しかし、20代の頃に貪るように探った古い京焼の姿と
自分たちの若い情熱を、この床板は思い出させてくれました。
今は、うれしいことにたくさんのご注文や
企画のお仕事をさせていただいていますが、
10年前は、どこに流れるか分からない心持ちで、
必死に古き良きやきもの達を凝視していたように思います。
こちらは、工房を始めたばかりの展示室・・・。

あの頃、美術館や書籍で触れたやきものの中には、
井野祝峰窯で生まれたものもあったかもしれません。
「登り窯」の時代は、もう過去でしょうか。
でも、その窯にあった歴史の断片は、
この小さな工房に残ってくれました。
これから、古の陶工たちの残り香を感じながら、
淡い浪漫を抱えて、より酔い酒器を並べていきたいと思います。

美味しい盛岡慕情

東北はもう冬支度を迎えている模様ですが、
のんびり綴る、初秋の東北紀行は続いておりますー。

四度目の来訪となった盛岡。
この街もまた胃袋をぐっと鷲掴みにする、
美味しいものが詰まっている街です。

盛岡駅に降り立つと、真ん前に君臨する「盛楼閣」。
まずは、洗礼的に食べたくなる盛岡冷麺を。
といっても、こちらは焼肉屋さんな訳でありまして、
お昼時といえども、一皿くらいジュジュっと炙って、
一杯ひっかけちゃうのが醍醐味というか、礼儀でございましょう。
冷麺に添えられる季節の果物は、まだ西瓜。
秋の梨もいつか出会ってみたいものです。

そして、盛岡の呑み屋街といえば、桜山神社の参道!
鳥居の内側に昭和の趣を漂わせる灯りが並んでいる様は、
吞兵衛の旅情を掻き立ててくれます。

ここにある「じゃじゃ麺」の名店が「白龍」。
盛岡冷麺、わんこそばに並ぶ盛岡三大麺のひとつですが、
店内はその偉業感を全く感じさせない、大衆食堂的な佇まい。
ただ「じゃじゃ麺」はかなりの異彩を放つご当地麺です。

供された皿の中の辛味噌と麺と絡め、
ラー油、ニンニクや酢で、自分好みの味に仕上げていきます。
更に麺を食べ終わった後は、器に卵を割りいれて、
お店の人にスープを入れてもらい、
〆の「ちいたんたん(鶏蛋湯:玉子スープ)」を作ります。
三年振りに再会した、この魅惑のセミセルフ仕立て。
辛くてあまり麺を食べられなかった娘には、
そっと飴を差し出してくれる店のおばちゃん・・・。
こんな岩手の人々のやさしさが、
楽しい子連れ旅を支えてくれました。

そして、盛岡のソウルフードといえば、
なんといっても「福田パン」。
焼きたてのコッペパンに具をチョイスして挟んでもらうという、
このシンプルかつ例を見ない臨場感がたまりません!
滞在中、朝食をこのパンに捧げようと誓った甲斐あって、
4泊中3パンを達成。
連日通ってもネタが尽きない具のバラエティさ。
名物「あんバター」も最高ですが、
うちのイチ押しは「レンコンしめじ&照り焼きチキン」のハーフ&ハーフ。
娘は「いちごミルク」一辺倒で毎食一本。若いってすごい。

街の中には、のんびりと木陰で寛げるパン食スポットが点在します。
盛岡城址公園で、妹家族と過ごした福田パン時間も
ほっこりとした思い出。ちなみに、酪農大国なので牛乳もおいしい。

そうそう、三年前に盛岡でトークイベントをご一緒した
木村衣有子さんの新刊『コッペパンの本』の巻頭にも、
「福田パン」がじっくり載っておりまーす。

展示会初日の夜は、酒場好きに成長した娘を連れて、
盛岡のみなさんや遠方からのお客さまもご一緒に、
桜山「MASS」さんの二階へ大集合。
大人14名に子ども5名といったカオスを確信する子連れ率ながらも、
快く引き受けてくださったMASSさんに心より感謝です!

子どもたちの嬌声が飛び交う中、
今をトキメク「遠野のどぶろく」を啜り、
盛岡の地での大宴会にしみじみいたしました。

MASSさんでは、うちの猫酒器たちも
ニャーと仲間入りさせていただいております。
お昼から旨い燗酒呑める、旅人にもたまらんお店ですよっ。

明る夜もまた東京からご来訪!のお客さまとの宴。
盛岡のわんこそばの老舗「東家」さんのプロデュースによる
Dining&Bar 九十九草」さんにて。
今回の猫展に合わせて「猫のお酒を、猫の盃で」と称して、
会期中、特製猫ラベルのお酒「にゃえもん」(川村酒造店)を
今宵堂製「ねこ盃」で出してくださいました☆

実は、この日のお昼ごはんは、
本家「東家」さんで「カツ丼」を。
サラリーマンや近所のおじいちゃんも続けざまに「カツ丼」!
「東家」といえば、「カツ丼」も旨い!そうで、
蕎麦出汁が染み込んだニ段重ねの厚いカツがたまりません。
街の人に愛される、街の飯処としての蕎麦屋に
小さく感動してしまうのです。

この日の梯子酒は再び桜山へ戻り、
かもし処 陽-SUN」さんへ。
ファンクな店長さんが醸してくれる雰囲気に
肴と酒のこだわりがキラリと光ります。
旅酒の良さを感じるのは、酔いお店のカウンターで
しみじみと杯を傾ける瞬間。
またゆっくりと訪れたい一軒に出会えました。

どうしても行きたい場所、というものがどの街にもあるものですが、
中津川の畔り「喫茶 carta」さんは、盛岡でのそのひとつ。
静かな空間で所々に置かれた本をめくりつつ、
珈琲とサンドウィッチで過ごすゆるやかな時間。
心に留まったのは、かぼちゃスープの漆のお椀。
漆器の持つ和的なイメージよりも、
その滑らかな肌合いとシンプルな形がとても印象的でした。

盛岡を発つ日のお昼は、
駆け込むように「中華そば・中河」さんへ。
お母さんと息子さんだけで営まれている、
街の小さなお店ながらも、地元の方から旅人まで、
ここの一杯を求めて暖簾をくぐる人が後を絶えません。
どこか静謐な空気の店内にお品書きは「中華そば」ひとつのみ。
娘の箸も止まらない優しい味。
どこかにあるようで、見つけられない、そんな大切なお店です。

盛岡の食を色々楽しんだこの旅。
ふと思い起こすと、その食からは、
なんだか穏やかな人の佇まいが浮かびます。
落ち着く街の風情は、
やはり旅先で触れ合った人の優しさから
醸し出されていたように思います。

また小さな酒器をひっさげて、
この街に帰ってきたいなと思います。

炬燵で丸くなる季節へ

先日終了いたしました盛岡「ひめくり」さんでの、
「猫」をテーマにした展示『吾盃ハ猫デアル』
今回、ご挨拶文としてこんな文を綴りました。
(写真をクリックすると大きくなります)

抱きしめたくなる愛らしさを持ちながらも、
その佇まいから醸し出される憂い、
なんだか酸いも甘いも嘗め尽くしたような渋さ。
そう、猫って「可愛い」だけではない。

愛らしさの中にも侘び風合い、
遊んだデザインにも骨董然とした肌合を。
そう心がけながら、
あとひと手間を添えようか、しばし筆を置くべきかと、
途中で何度も立ち止まりながら進めた制作でした。

ニャーと焼きあがってきた器は、
こんな猫たちになりました。

「山猫徳利・山猫猪口」
帽子をとれだのお絞りで手をふけだの、
色々と「注文の多い」酒器でございます。
岩手生まれの彼の文豪へのオマージュです。

「猫騙シ盃」
十二支の逸話から。
鼠に騙されて一日遅れで行った猫は、
干支に入れず盃の裏に・・・。
終電を逃さないようにとの戒めでもあります。

「猫額皿」
猫の額ほどの僅かな肴でも、
ちびちびつまみながら
ほどよく秋の夜長は更けてゆきます。
塩でも豆でも切れっ端でも、
みみっちさもまた旨いのですよね。

「小判箸置」
表は「千万両」、裏は「無一文」
呑みすぎて、ひっくり返ってスッテンテン。
猫に小判といいますが、
吞兵衛が小金を持つと酒に消える・・・。

「注器(チューき)」
猫と対をなす宿命を背負った鼠。
きらわれものですが、
たまには目線や酒も注いであげたい。
でも呑み過ぎにはごチュー意を。

「ニャン徳利」
大衆酒場の徳利として愛される
口元に膨らみを持たせたこの形状。
こぼれやすいので、
徳利をおちょこにくっつけて注ぐのが酒呑みの流儀。
その姿はゴロニャーンと甘える猫の様。

「猫飯碗」
呑んだ暮れ、〆には白飯、鰹節。
今、うちの娘のご飯茶碗はこれでございます。

(ほかの器や展示の様子は、facebookページのアルバムをどうぞ。)

会場の「ひめくり」さんは気持ちいい中津川沿い。
ガラス越しに眺める川原の景色は三年経っても変わらず。
この光の中で、お店に並ぶ手仕事の品々を
ゆっくりと手に取ることができます。

店長の美帆さんの優しくうれしい気配りに甘えながら、
私たちも在店時間を楽しく過ごさせていただきました。
ちなみに、美帆さんのおうちの猫ちゃんの名は、
「ひめ」と「くり」!
ひめくりさんのTwitterでときどきグラビアが載ってます。

「ひめくり」というお店で何かいいものを見つけたい、
そんな思いでご来店されている地元の方々の気持ちを
ひたひたと感じた在店二日間。
うちの酒器たちもニヤリと楽しんでいただけたかな・・・。

そして、京都、東京、福島、仙台などなど、
遥か遠方からも盛岡へ足を運んでくださったみなさま、
目頭熱く、ありがとうございます!
みなさんの酔い盛岡散歩のお話も楽しかったですっ。

季節はあっという間に流れて、
京都も秋深く、盛岡は初冬の気配でしょうか。
猫も炬燵で丸くなる、そんな夜にそっと傍に転がる
酒器となってくれますように・・・。

今宵堂ノ酒器展『吾盃ハ猫デアル』

京都の夏は、送り火まで。
暦の上での決まり文句と思いきや、
なんとなく風の色が変わる8月末。

工房は、初秋の盛岡での展示に向け、目下制作集中期。
仕事しつつも、旅先の旨いものに思いを馳せてしまいます。
「福田パン」の具、何にしようかな・・・。

北海道に次ぐ広大な土地、みちのくの自然の中で、
力強いものづくりを発信している岩手の文化の中枢。
盛岡は、郷土の味わいと洗練を感じさせてくれる、
大好きな街です。なんだか自分たちの住む
京都にも似ているような感じもするのです。

展示会場は、中津川のほとりに佇む
ギャラリー&ショップ「ひめくり」さん。
三年前、「馬」をテーマに酒器展をさせていただいたときは、
うちの娘もヒヒーン☆とまだ四つん這いでした。
展示の様子はこちら

三年を経て、娘は二足歩行になりましたが、
今回のテーマは、馬から「猫」へ。

猫は、馬と同じように、
古代から人間ととても近い場で暮らすいきもの。
その飄々とした仕草ゆえ、書き手作り手の妄想をかきたて、
古今東西、数々の創作のモチーフとなってきました。
今回は、その猫たちに酒卓へとピョンと降りてきてもらい、
その愛くるしい威をちょいと借りることにいたしました。

今宵堂ノ酒器展『吾盃ハ猫デアル』。
秋風にヒゲを揺らして、
盛岡でお待ちしておりますニャ。

今宵堂ノ酒器展 『吾盃ハ猫デアル』

2016年 9月9日(金)~ 20日(火)
    10:30 ~ 18:30(最終日は16:00まで)
    木曜/第一・第三水曜定休
会場 / shop+space ひめくり
    盛岡市紺屋町4-8(深沢紅子 野の花美術館となり)
電話 / 019-681-7475

※ こちらからDMをご覧になれます。
※ 今宵堂は、10日(土)・11日(日)に会場に在所いたします。

●「猫のお酒を、猫の盃で」
盛岡のわんこそばの老舗「東家」さんのプロデュースによる「Dining&Bar 九十九草」さん。お蕎麦をアレンジしたものなど素敵な創作料理が揃うこの酒場で、会期中、特製猫ラベルのお酒「にゃえもん」(川村酒造店)を今宵堂製「ねこ盃」で呑めるんだニャ~。

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